少人数教育の可能性

 みなさんは日本の小学校で行われる教育についてどのような印象を持たれていますか?日本の教育については、新聞やテレビ、インターネット上で様々に語られています。給食を通した食育や、子どもたちが自分自身で教室を掃除することが賞賛されることは多いですよね。

 しかしその一方で、学力低下問題や教員の過重労働問題などを理由に日本の教育を批判する意見があることも事実です。そうした中、今回は特にクラスあたりの児童生徒の多さに焦点を当ててみます。今春、台湾の小学校で国際理解ボランティアに参加した経験をもとに、日本の少人数教育について考えてみたいと思います。

 

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教師と子どもの比率、ST比からみる日本の現状

 上述したように、日本の1クラスあたりの子どもの人数が多いことは、児童生徒1人に掛けられる教師の目が薄まり、問題行動が増えてしまう、などとしてよく非難されてしまいます。それでは、少子化傾向や地理的要因においていくつもの共通点を示している台湾と比較してみましょう。

 1クラスあたりの子どもの人数を実際に計ることは難しいので、ここでは代理指標としてST比というものを用いてみたいと思います。SとはStudent(児童生徒)を指し、TはTeacher(教師)を指します。つまりST比とは、教師1人あたりの児童生徒の人数を意味するのであって、その値が小さいほど、きめ細やかな指導が受けられると考えられています。それでは、台湾と日本の具体的なST比を見てみましょう(表)。

表:台湾と日本における各学校段階におけるST比

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台湾については台湾教育部『105年版 教育統計指標之國際比較』より引用。

日本については文部科学省『平成28年度 学校基本調査』より作成。

 以上の表から、高等学校においては日本の方が、小学校や中学校では台湾の方が、教師1人あたりの児童生徒数が少ないことがわかります。しかしここに表れている値の差は小さく、日本と台湾とでは大差がありません。それでは台湾も日本と同様に、少人数ではないクラスが展開されているのでしょうか。

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教育制度からみる少人数教育システム

 実はそうではありません。

 インターンシップに参加させていただいた台湾の公立小学校は全校児童数が365人であり、1学年あたり60人程度の児童が在籍していました。しかし全ての学年が3学級に編成されており、各クラス20人前後の少人数教育が展開されていました。日本の場合、1学年60人だと2クラスになることがほとんどです。

 この日本と台湾の違いは以下のように説明できます。

 日本の学級編成方針は「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(以下、標準法)」によって規定されています。そしてその標準法は「義務教育のクラスは児童生徒40人ごとに1クラスずつ増やすこと」を定めています。つまり学年の児童生徒数が1~40人の場合は1クラス、41~80人の場合は2クラス、81~120人の場合は3クラスとされているのです(例外規定も多く、小学1年生のクラス定員は35人と定められています。さらに自治体による違いも多く見られます)

 そしてこの標準法のもとでは、クラス数に応じて教員数が決定されるので、少人数教育の運営が難しくなってしまいます。

 対して、台湾では「パーヘッド(1人頭)の原則」というものが取られています。これは児童生徒数に応じて教育予算を配分する原則のことをいいます。配分された予算は学校ごとに自由使うことができるため、その予算で教員の数を増やすことによって、少人数教育が可能になるのです。

 以上より、台湾と日本とではST比に差がないが、台湾で少人数教育が行われているにはなぜか、という疑問の答えは次の通りです。つまり台湾では各学校の状況に応じて柔軟にクラス編成が可能であるので、少人数教育が実現しやすい、ということなのでした。

 

少人数教育の観点からみた日本教育の展望

 フィンランドの教育が注目されて以降、日本でも少人数教育を求める声は高まっています。しかし現在の日本の教育制度では、少人数教育を行うのはやや難しくなってしまっています。そうであるならば、日本での少人数教育を推し進めるのに必要なのは教育制度の改革になります。

 ただここで立ち止まって考えるべきなのは「本当に少人数教育に効果があるのか」ということです。実は残念なことに、これまでの研究をまとめると「少人数教育にはいじめや不登校を大幅に減らしたり、学力を大幅に挙げるだけの効果がない」という結論に至ります。

 日本全体の税収が減少していくこれからに必要なのは、本当に効果がある政策なのかを見極めてから予算を投入することではないでしょうか。

 

参考文献

苅谷剛彦 2009 『教育と平等―大衆教育社会はいかに成立したか』 中公新書

 https://goo.gl/TRLpkS

工藤文三他 2012 『学級編制と少人数教育が児童の学力に与える影響についての調査 報告書』 (.pdf)

 https://goo.gl/oO43mE

財務省 2016 『財政制度分科会(平成28年11月4日開催)資料2 文教・科学技術』(.pdf)

 https://goo.gl/XAhH65

台湾教育部 2016 『105年版 教育統計指標之國際比較』(.pdf)

 https://goo.gl/fKmHW5

中室牧子 2017 『少人数学級はいじめ・暴力・不登校を減らすのか』(.pdf)

 https://goo.gl/GPqNnp

文部科学省 2016 『平成28年度 学校基本調査』(webページ)

 https://goo.gl/r17QtH

文部科学省 2016 『財政制度等審議会財政制度分科会 (平成28年11月4日開催)資料(義務教育費国庫負担金関係)についての文部科学省の見解』(.pdf)

 https://goo.gl/x0nPbE

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