なぜ今教育の無償化か?

 今年10月に行われた衆議院議員選挙では与党自民党が大勝し、選挙公約に掲げていた教育の無償化に関する議論が始まることになりました。特別国会の初日にあたる11月17日に行われた所信表明演説で安倍首相は後期中等教育や高等教育の無償化について以下のように述べました。

 

どんなに貧しい家庭に育っても、意欲さえあれば、高校、高専にも、専修学校、大学にも行くことができる。そういう日本に、皆さん、していこうではありませんか。真に必要な子どもたちには、高等教育を無償化します。

 

 これによれば教育の無償化と子どもの貧困とが関連付けられているように見えますが、教育の無償化に関するそもそもの目的は子どもの貧困の解決にはなかったのです。それではなぜ、教育の無償化は議論され始めたのでしょうか。今回は教育無償化にある背景について考えてみたいと思います。

 

 

なぜ教育の無償化か

 

 教育の無償化が行政によって行われるのであれば、それを担当する大臣がいるはずです。それでは教育の無償化についての議論を担ったのはどの大臣かご存知ですか?教育についての分野だから文部科学大臣でしょうか。それとも子どもの貧困という福祉的な問題だから厚生労働大臣でしょうか。実はそのどちらでもないのです。教育の無償化を担当したのは「人づくり革命担当大臣」と呼ばれる特別ポストだったのです。

 この「人づくり革命担当大臣」を経済再生担当大臣とともに兼任している茂木氏が「人づくり革命」のテーマとして、「無償化を含む教育機会の確保」を掲げていることを産経新聞は報じています。

 教育機会の確保というとき、どの教育段階での機会確保が念頭に置かれているのでしょうか。日本では小学校と中学校は義務教育として教育機会が保障されており、高校についてもその進学率の高さから実質的には義務教育としてみなすことができます(2017年度の高校入学率は98.8%)。これに対して4年制大学や短大、専門学校を含めた高等教育の進学率は63.6%となっています。

 冒頭で引用したように、安倍首相は所信表明演説にて高等学校を含めた教育の無償化について言及しています。しかしその実質的な対象は高等学校より後にある大学等であることが、以上からわかります。

 それではなぜ大学の無償化が「人づくり」として注目されているのでしょうか。それは高等教育を受けることが、知識基盤社会と呼ばれるこれからの社会において重要であるとされているからです。つまり知識基盤社会に対応できる力を伴った人材を「つくる」ことが、教育の無償化のそもそもの目的として指摘できるのです。

 以下では知識基盤社会というこの聞き慣れない言葉について考えてみたいと思います。

 

 

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知識基盤社会とは何か

 

 この知識基盤社会について2005年の中央教育審議会の「我が国の高等教育の将来像」という答申は、「新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す」社会のことを知識基盤社会として定義づけています。その上で同答申は知識基盤社会の特質として、

  1. 知識には国境がなく、グローバル化が一層進む
  2. 知識は日進月歩であり、競争と技術革新が絶え間なく生まれる
  3. 知識の進展は旧来のパラダイムの転換を伴うことが多く、幅広い知識と柔軟な思考力に基づく判断が一層重要になる
  4. 性別や年齢を問わず参画することが促進される

の4点を挙げています。

またこの答申はこのような知識基盤社会と高等教育の関係を以下のように整理しています。

 

「知識基盤社会」においては、高等教育は、個人の人格の形成の上でも、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国家戦略の上でも、極めて重要である。(中略)特に、人々の知的活動・創造力が最大の資源である我が国にとって、優れた人材の養成と科学技術の振興は不可欠であり、高等教育の危機は社会の危機でもある。

 

つまり高等教育には、変化の激しい知識基盤社会を日本が生き残るために、日本最大の資源である人材を養成することが要求されているのです。

高等教育の質に対してはいくつかの疑問が投げかけられています(日本経済新聞社の記事参照)が、日本の生き残りの鍵を握っているのが高等教育であること自体は疑いようがないようです。

次回の記事では、このような知識基盤社会において重要視されている能力について考えてみたいと思います。

 

 

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参考文献

中央教育審議会, 2005「我が国の高等教育の将来像」〈http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05013101.htm〉2017年12月20日アクセス可

日本経済新聞, 2017「「人への投資」の虚実 教育政策データで読む」〈https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS21H08_U7A520C1SHA000/〉2017年12月20日アクセス可

毎日新聞, 2017 「安倍首相:所信表明演説全文」〈https://mainichi.jp/articles/20171118/ddm/010/010/019000c〉2017年12月20日アクセス可

産経新聞, 2017 「「人づくり革命」のテーマは5つ 茂木敏充経済再生相」〈http://www.sankei.com/politics/news/170804/plt1708040075-n1.html〉2017年12月20日アクセス可

総務省統計局, 2014「学校基本調査 平成26年度」〈http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528〉2017年12月20日アクセス可

総務省統計局, 2017「学校基本調査 平成29年度(速報値)」〈http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528〉2017年12月20日アクセス可

 

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