子どもの貧困とその解決策

 前回のコラム『自己責任論と子どもの貧困』では、自己責任論の欠陥と子どもの貧困が注目を集めた理由をご紹介しました。子どもの貧困が解決されるべき課題だという共通前提に立ったとして、それでは私たちはどのようにしてこの困難に立ち向かうことができるのでしょうか。マクロな視点を通して考えてみたいと思います。

 

 

子どもの貧困はどのような影響を与えるのか?

 

 子どもの貧困に立ち向かうと端的に言っても、子どもの貧困が子どもたちに与える影響は多岐に渡っており、どの領域に対してアプローチするかの判断は難しくなってしまいます。

 前回のコラムで言及した阿部彩氏は、子どもの貧困による影響を教育、健康、福祉、精神面の4つに大別して整理しています(阿部, 2013)。列挙するだけになってしまいますが、子どもの貧困を多角的な視点から捉えるために確認してみましょう。

 まず最初に教育への影響としては、親の収入と学力との間にある相関関係が指摘できます。つまり親の収入が高ければ高いほど、子どもの学力も高くなるというのです。

 また健康面では、貧困であるほど喘息の通院率や虫歯の罹患率が高くなり、夏休み期間中の体重減量が観察されやすくなるほか、無保険状態に陥りやすくなることが報告されています。最後の無保険状態については行政の積極的な介入によって解消が進みましたが、それでもなお自己負担の大きさが、子どもの病院受診を妨げてしまっている問題は解決されていません。

 次に福祉の現場からは、ネグレクトなどの児童虐待や不登校といったリスクに遭遇しやすいことが報告されています。

 最後に精神面では、貧困状態にある子どもの自己肯定感が低く、希望が持ちにくくなる傾向が明らかにされています。

 以上阿部彩氏の整理をもとに貧困が子どもに与える影響として代表的なものを紹介しました。このように多岐にわたる影響に対して一体どのような支援を講ずることができるのでしょうか。次ではその方法を考えてみたいと思います。

 

スクリーンショット 2017-11-01 11.34.13

 

 

子どもの貧困に立ち向かう手段とは何か?

 

 子どもの貧困への支援として一般的に知られているのは子ども食堂です。こうした支援は特別な知識や技能がない人でも比較的始めやすいものですし、子どもたちにとっても健康な食事やまるで家庭のような安心感を味わえる取り組みです。ですがその一方で子ども食堂は、その規模の小ささのために支援の影響や範囲が限定的になってしまいます。

 子ども食堂の取り組みが必要で重要なものであることは言うまでもありませんが、ですがだからといって子どもの貧困のために取られるべき施策が子ども食堂のみで済むということにはなりません。

 ここで考えたいのは、市民のみの力では解決できないような子どもの貧困に対して、国家的な政策としてどのような対応策があるのか、ということです。これについて考えることは、子どもの貧困をより深く理解することや、大きな視点で子どもの貧困に取り組むための第一歩につながります。

 国家による子どもの貧困への対策を考える際、重要なのは2000年のノーベル経済学賞を獲得したジェームズ・ヘックマン氏の議論です。ヘックマン氏は小学校入学前の就学前教育に注目し、「恵まれない境遇にある就学前の子どもたちに対する投資は、公平性や社会正義 を改善すると同時に、経済的な効率性も高める非常にまれな公共政策である」と指摘しました。彼が依拠したのはペリー就学前プロジェクトと呼ばれるもので、1960年代の半ばにアフリカ系アメリカ人の幼児を対象としたものです。このプロジェクトでは、120人程度の幼児に質の高い保育を受けるグループとそうでないグループの2つに分け、50年以上に渡ってその後の生活を追跡しています。これによれば高い保育を受けたグループの方が学力や学歴、収入や逮捕歴などにおいて、そうではないグループに比べて有意に優れていたのです。またペリー就学前プログラムによって得られた便益は、その投資費用に比べて17~18%の収益率があることも算出されており、非常に効率的な政策であることも判明しています。

 こうした結果を踏まえると、就学前教育は一見すると魅力的に写りますが、ここで気をつけなければならないのは時代や国の違いです。1960年代のアメリカと2010年代の日本とでは、保育サービスの質において高さや平等さが全く異なります。当時のアメリカで成功したからといって現代の日本でも同様に成功するとも限らないのです。

 

スクリーンショット 2017-11-01 11.34.22

 

 

 前述の阿部彩氏も上記の本の後半で解決策を提案していますが、それらの大半は海外の研究を下敷きにしたものであって、それらを鵜呑みにすることはできません。

 前回のコラムでも触れたように日本の貧困研究の歴史は浅く、自前の対策法を講ずるには至っていません。そのため海外から輸入する必要があるのですが、輸入するものが日本でも効果的であるのかについては敏感になる必要があります。今後必ず向き合わなければならないこの問題について、日本に合った解決策はどのようなものであるのか、私たち1人1人が考えなければいけません。

 

参考文献

朝日新聞デジタル、トピックス「子ども食堂」

 https://goo.gl/QzHFk1

阿部彩, 2008,『子どもの貧困—日本の不公平を考える』岩波新書

 https://goo.gl/z92VZY

阿部彩, 2013, 『子どもの貧困Ⅱ—解決策を考える』岩波書店

 https://goo.gl/YXqcFi

Greg Parks 2000, “The High/Scope Perry Preschool Project” Office of Juvenile Justice and Delinquency Prevention (OJJDP) Justice bulletin (.pdf)

 https://goo.gl/rM5j6i

James J. Heckman 2006, “Skill Formation and the Economics of Investing in Disadvantaged Children” SCIENCE, Vol 312 (.pdf)

 https://goo.gl/7Eeofq

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA