「コミュニケーション能力」を考える

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皆さんは「コミュニケーション能力」と聞いてどんなことを思い浮かべるでしょうか。自分の意見を分かりやすく伝える力、相手の話を傾聴する力、良い質問をする力…、まだまだ、いろんな力がコミュニケーション能力として語られています。

けれどもどんな風にでも言えてしまうからこそ、コミュニケーションって結局なんだと問われるとよく分からなくなってしまいますね。

 

今回は学校でも社会でも何かと注目が集まるコミュニケーション能力について考えてみました。

 

 

なぜ今、コミュニケーション能力なのか

 

 

 

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コミュニケーション能力という言葉が特に頻繁に使われるのは就活の場面ではないでしょうか。

経団連が実施している新卒採用に関するアンケートの「選考時に重視する要素」という項目の推移を見てみると、2004年以来、コミュニケーション能力が13年連続で第1位になっていることがわかります。

 

どうしてこんなにもコミュニケーション能力が求められるようになっているのでしょう?

その理由の一つには、社会の流動性が高まってきたということがあります。

もし地縁・血縁関係が残っており、規範もしっかりしているような社会であれば、頑張ってコミュニケーションとろうと意気込む必要はないでしょう。長年暮らしを共にする家族が無言で意志疎通できる、というのも同じようなことです。

けれども、そういった安心で安定した社会が崩れてしまうとそうもいきません

人と人との関係が浅くなり、下手すれば周りの人がどういう人で何を考えているかもさっぱり分からない。それは例えば公共交通機関などが顕著であり、見ず知らぬの人に話しかけるのは相当の気合と勇気が必要です。

しかし、たとえそのような環境であったとしても、いざというとき時には人と人とが結びつき、一緒に何かをやるという必要はどうしても欠かせません。

現在コミュニケーション能力が求められるのは、どうもそういったところに背景がありそうです。

 

 

コミュニケーション+能力=?

 

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もう少し言い換えると、人と人との関係性が希薄になればなるほど、よりいっそう個々人に高いコミュニケーション能力が求められるようになっていった、というわけです。

しかし、先ほどからコミュニケーション「能力」と、あたかも 「コミュニケーションは能力だ」という風に言葉を使っていますが、本当にそうといえるかは怪しいところです。

能力といわれると、例えばゲームの主人公が敵を倒してレベルアップしたときに能力があがる、そんなイメージがあるかもしれません。ゲームでなくても、○○力を身につけたい!となれば何かしら個人で練習したり経験を積むことを通して力をつけようと試みるのではないでしょうか。

実はそこには暗に、「能力は個人に帰属するもの」、という考え方が潜んでいます。

…とはいっても、ちょっとおかしい気がしませんか?

コミュニケーションは「コミュニティ(共同体)」と同じ語源を持っていることからも分かるように、そこには一人の人ではなくて多くの人が想定されているはずです。実際、語源のラテン語にまでさかのぼれば、「何かが共有される」「何かが共通のものになる」という意味があったとされています。

そのように考えると、多くの人によって成り立つコミュニケーションを、「コミュニケーション能力」という形で個人の能力だけに求めてしまうのには少し無理があるような気がしてきました。

「そこにいる人達の間で何かが共有される」コミュニケーションをとるためには、個人の能力とは違う、別の観点から考える必要がありそうです

そのことについて、次の節でもう少し考えてみましょう。

 

 

文化人類学の知見から

 

 

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それでは、コミュニケーション能力は個人に帰属するもの、という考え方以外に、どのような考え方があるのでしょうか。

その1つとして、文化人類学における「贈与交換」という概念が参考になります。

ふつう「交換」と言われれば、1対1の関係で、同等な価値の物を交換し合う、という場面が思い浮かびます。お互いに同価値だと合意の上で物々交換をする、このような交換は「等価交換」と言われています。

関係性が希薄でバラバラな個々人が、各々コミュニケーション能力を駆使して同じ価値の物を交換するために交渉しあう、といった感じです。

一方、文化人類学者たちがアジアの島々などで見つけた「贈与交換」は、それとは全く違う原理で動いていました。その原理は等価交換のように「1対1でフェアに」、ではなく、「不特定多数の間で気前よく」、という交換のありかたでした。ご近所付き合いでのおすそ分けなどがイメージしやすいでしょうか。

こちらは人と人との関係性や社会基盤、言い換えれば「コミュニケーションの環」がまだしっかりしており、その関係性を良いものに保つためにお互いに気前よく贈与しあう、という感じですね。

ざっとした説明ではありましたが、この2つの交換を比べてみると、等価交換と贈与交換との間には、個人が自身に帰属するコミュニケーション能力を駆使して関係性を作っていくか、それともあらかじめ存在しているコミュニケーションの環に貢献していくか、というちょうど真逆の関係があることに気付きます

贈与交換のあり方は等価交換と比べて非効率的だと言われてしまえばそこまでかもしれませんが、実はその非効率さがあるからこそ、コミュニケーションの環が深まり、また交換過程で互いに多くの副産物に恵まれるのです。

等価交換が冷静で効率的なコミュニケーションであるとすれば、贈与交換は温かみがあり人間味あふれるコミュニケーションである、ということもできるでしょう。

不特定多数の人々の間で何かが共有されるためには、個人の能力だけではなく、それを支えるつながりやコミュニティをよりよくしていく必要がある。文化人類学はそのような視点を提供してくれているようです。

 

 

合意形成・課題解決のため…

 

 

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2011年、文科省のコミュニケーション教育推進会議がコミュニケーション能力についての次のような定義を提示しました。

 

「(コミュニケーション能力とは、)いろいろな価値観や背景をもつ人々による集団において、相互関係を深め、共感しながら、人間関係やチームワークを形成し、正解のない課題や経験したことのない問題について、対話をして情報を共有し、自ら深く考え、相互に考えを伝え、深め合いつつ合意形成・課題解決する能力」

 

この定義を見てみると、能力という言葉は使いつつも、「集団」や「相互関係」、「チームワーク」等々、やはり個人の力だけではカバーできない要素がたくさん含まれていることが分かります。

またこの定義からすれば、コミュニケーションをとる目的は多くの人の間で合意形成・課題解決することにある、という風に言うこともできるでしょう。

けれどもその際、合意形成・課題解決に至るまでの過程がどのようなコミュニケーションで成り立っているべきか、という点が大切です。

この点について、劇作家で演出家の平田オリザ氏は、いままでは空気を読んで一致団結するような「価値観を一つにする方向のコミュニケーション能力」・「協調性」が求められてきたが、これからの新しい時代には「バラバラな人間が、価値観はバラバラのままで、どうにしかしてうまくやっていく能力」・「社交性」が求められる、と述べています。

冒頭でも述べたような、流動性が高くなり、人と人との関係性が薄まった社会においては、どうしても個人のコミュニケーション能力を高めることばかりが求められがちです。もちろんそのことも大切です。しかし、それだけに終始してしまうと、ただ効率ばかりが重視される冷たい関係性になりかねません。

バラバラで多様な人々がそれでもどうにかしてうまくやっていくためには、個々人のコミュニケーション能力を鍛えるだけではなく、それを支えるコミュニケーションの環・コミュニティをいかに温かで豊かなものにしていくか、そのような観点を同時に持つことも必要なのではないでしょうか

 

いま子どもたちに求められるコミュニケーション能力。将来の子どもたちは、どのような環境で、どのようなコミュニケーションをとることができる必要があるのでしょう。

 


「コミュニケーション能力」についてどう思われるか、ぜひ皆さんのご意見お聞かせください。

 

 

 

 

<参考資料>

平田オリザ(2012)『わかりあえないことからーコミュニケーション能力とは何かー』講談社現代新書.

小倉ヒラク(2017)『発酵文化人類学』木楽舎.

「子どもたちのコミュニケーション能力を育むために」 (審議経過報告) ~「話し合う・創る・表現する」ワークショップへの取組~ コミュニケーション教育推進会議(2011.8.29).
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/08/__icsFiles/afieldfile/2011/08/30/1310607_1.pdf

2016年度 新卒採用に関するアンケート調査結果の概要.
日本経済団体連合会(2016.11.15)

https://www.keidanren.or.jp/policy/2016/108_gaiyo.pdf

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